体内に入ったHIVは数種類の白血球に付着しますが、特に重要なのがヘルパーT細胞への付着です。ヘルパーT細胞は、免疫システムのさまざまな細胞を活性化させ、その働きを調整する役目をもっています。ヘルパーT細胞の外膜には「CD4」と呼ばれる受容体タンパク質があります。このためヘルパーT細胞は「CD4+」と表記されます。HIVは遺伝情報をRNAに蓄えており、いったんCD4+リンパ球に侵入すると、「逆転写酵素」と呼ばれる酵素を使って自分のRNAにある遺伝情報をDNAにうつしていきます。
こうしてウイルスDNAは感染したリンパ球のDNAに組み入れられ、細胞内のウイルスはリンパ球の増殖のしくみに乗って自らを増殖していき、やがて細胞を破壊してしまいます。感染細胞ごとに複製された何千もの新しいウイルスは、さらに他のリンパ球に感染し、破壊していきます。こうして数日から数週間のうちに、リンパ球の数を減らし、他の人への感染力をもつほどにHIVは増殖します。
HIV感染によってCD4+リンパ球が破壊されると、さまざまな感染症や癌(がん)の攻撃から身を守る体の免疫システムの働きが低下します。いったんHIV感染症が起こると、生体がそれを排除できないのはこのためです。ただし、免疫システムもある程度は反応できるので、感染から1〜2カ月以内に体はリンパ球と抗体をつくり、血液中のHIV量を減らして感染を制御します。そのためHIV感染症では、人によっては長い時間がたってから初めて重い症状が出ることがあるのです。
血液中のCD4+リンパ球の数は、さまざまな感染症から体を守るための免疫システム能力を決定づけるため、HIV感染症により受ける障害の程度を知る目安にもなります。健康な人では血液1マイクロリットルあたりおよそ800〜1300個のCD4+リンパ球がありますが、HIVに感染すると初めの数カ月で40〜60%のCD4+リンパ球が破壊されます。6カ月ほどするとCD4+リンパ球数の減少はゆるやかになりますが、止まることなく減り続けます。
CD4+リンパ球数が血液1マイクロリットルあたり200個以下になると、カリニ肺炎を引き起こす真菌感染症など、ある種の感染症に対する免疫システムの闘う力が衰えます。これらの感染症は免疫システムが正常な人には起こらないので、「日和見感染症」と呼ばれています。CD4+リンパ球数が血液1マイクロリットルあたり50個以下になると特に危険で、さまざまな日和見感染症が重なって起こり、急激な体重減少や失明が生じ、また死に至ることもよくあります。
血液中のウイルス量をウイルス・ロード(ウイルス負荷)と呼びます。HIVに感染した後の数カ月間は、大量のウイルス粒子が血液中を循環します。非常に感染力の強い時期です。その後ウイルス負荷は低下し、しばらくそのレベルを保ちます。このときの値が、各患者の感染症における感染力の強さと病気のその後の進行の速さを示す重要な指標となります。ウイルス負荷が減少したり、非常に低いレベルになれば治療がうまくいっているという目安になるので、治療はウイルス負荷を測定しながら行います。治療の目標は、血液中のウイルス負荷を検知不能なレベルにまで低下させることにありますが、そのときでも一定量のウイルスはおそらく存在しています。ウイルス負荷の増加は、薬剤耐性の発現や、患者が医師の指示通りに薬を服用していないことを示唆している場合があります。
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